新たな金融制度を模索するイスラム

執筆者:一色英剛2002年2月号

欧米に流出してしまった個人資産をイスラム世界に環流させなければ発展はあり得ない。カギとなる経済の動脈・金融市場の育成と宗教戒律の両立をめざす動きが活発化している。 ペルシャ湾岸アラブ産油国をはじめとする中東・アジアのイスラム教国で、宗教戒律に準拠した「イスラム式金融」を振興し自国・域内経済を発展させようという試みが本格化しつつある。不労所得である利子や投機的金融、生命保険などを禁じてきたイスラムの戒律と欧米型資本主義システムとを、新制度導入や法的措置によって巧みに折り合わせようという構想だ。これまで欧米に流出していた巨額の資産を域内に環流させ、同時に外国からの投資資金を呼び込むという各国共通の課題に対しても有効な解決策となる可能性を秘めており、その成否には欧米金融機関も注目し始めた。 各国政府の赤字体質とは裏腹に、かつて石油ブームで潤ったイスラム圏の市民にはいまなお巨額の個人資産を持っている者も少なくないが、その資産の大半は金融市場の整備が遅れ目ぼしい投資先もない域内を見限り、先進国に流出したままだ。 サウジアラビア、クウェートなど湾岸アラブ六カ国には推計で一兆四千億ドルの個人資産があるが、その九〇%はロンドン、ニューヨークなど欧米市場に投資されているといわれる。経済再建の切り札として日本など先進国に直接投資を求めている各国だが、「自分たちも投資しない市場に、どうして投資しろと言うんだ?」との揶揄も聞こえてくる。域内にどうやって魅力的な市場を作るかが、各国に突きつけられた長年の課題だった。

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