ソニー、松下、キヤノン――上場企業が子会社を「非上場・完全子会社化」する例が増えている。これまでと逆の流れは、連結決算時代を迎え、利益の外部流出が投資家に嫌われ始めたことの現れだ。 松下電器産業による子会社五社の「完全子会社化」は、日本企業のグループ会社経営を根底から変えるきっかけになりそうだ。 これまでの日本企業の「常識」は、優れた子会社を個別に株式公開し、知名度を上げて人材確保や従業員のインセンティブ向上につなげることだった。富士電機から富士通が生まれ、富士通からファナックが生まれたように、親会社よりも子会社、子会社よりも孫会社が投資家の人気を集めることも珍しくなかった。だが、松下の決断は日本企業に新たな「常識」をもたらした。もはや子会社は上場しない――。三つの理由 今年一月、松下通信工業、九州松下電気、松下精工、松下寿電子工業、松下電送システムの五社が松下電器産業の完全子会社になることが決まった。松下といえば、子会社を積極的に上場し、日本企業の子会社上場ブームを牽引してきた企業だ。その松下がこれまでとは全く逆の経営姿勢を示したことの影響は大きい。 松下の五子会社の株はそれぞれの交換比率に応じて松下株と交換される。交換比率は子会社の株主にとって魅力ある水準に設定され、順調に進むと見られている。松下の発行済み株式は約三億株増える見通しで、松下は四月までに六千万株を上限とする自社株買いを実施し、株式交換による新株発行の負担を減らす。松下は発行済み株式が増えることによる一株あたり利益の希薄化やバランスシートの膨張と引き換えにしてでも、五子会社を完全に傘下に入れる決断をしたことになる。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。