【ブックハンティング】 アッチとコッチ

執筆者:向井万起男2002年4月号

 国際化の時代となった今、日本と外国との違いを知っておいて損はない。何しろ、アッチの国々とコッチはかなり違うのだから。そして、アッチの人々は私達とは妙に違うというか、決定的に違ったりしているのだから。 そうした違いを知る上で実に参考になる本が最近三冊出た。まずは、佐山和夫『ヒーローの打球はどこへ飛んだかロベルト・クレメンテの軌跡』(報知新聞社)。この本は、一九八六年に出た名著の復刻版だが、今この時代に読んだ方が日本人には分かりやすい。何故なら、最近、多くの日本人にとって大リーグは身近なものになっているから。 プエルトリコ出身の大リーガー、ロベルト・クレメンテは強肩好打の名選手として素晴らしい成績を残した大スターであり、それだけでも歴史に名をとどめる男だ(もちろん、“野球の殿堂”入りもしている)。 しかし、この本が主に扱っているのは、クレメンテのもう一つの面だ。クレメンテは大リーグで大活躍しただけでなく、社会活動・慈善活動でも大活躍していたのだ。そして、一九七二年の大晦日、大地震に見舞われたニカラグアに救援物資を運ぶために自ら乗り込んだ飛行機が墜落して世を去った。 この本を読むと、最近の多くの日本人が忘れてしまった“高貴なる者の責務(ノブレス・オブリージュ)”という言葉の意味を深く考えさせられる。そして、“ノブレス・オブリージュ”を見事に体現した息子を突然失った母が静かに語る言葉は、涙なしには読むことが出来ない。この見事としか言いようがない母の言葉を知るためだけでも、この本は読む価値がある。

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