[パリ発]かつてマクルーハンは六〇年代にラジオを「ホットメディア」と規定した。フランスは、このいささか古いコンセプトを踏襲する見本のような国かもしれない。あれほどおしゃべり好きの国民が、ラジオにはじっと耳を傾ける。自己完結度の高いホットなおしゃべりに負けず劣らず、ラジオは映画と並ぶ聖域なのだ。 さて、時代は下り、サッカーの二〇〇二年ワールドカップ(W杯)開催が目前に迫った。前回の覇者フランスは連続優勝への期待に胸をふくらませているが、国内ではW杯を巡ってもう一つ別の戦いが熱を帯びてきた。フランスのある小さなラジオ局が、先頃破綻した独メディア大手キルヒから買い取った放送権をめぐって、ラジオ業界をあげて異議申し立てが行なわれているのだ。 事の発端は昨年十二月、仏民間ラジオ局RMCアンフォが、キルヒから今期W杯の独占ラジオ放送権を五十六万四千ユーロ(約六千六百万円)で買収したこと。日本と韓国で繰り広げられる計六十四試合を、フランスのほかモナコやルクセンブルクなどで独占的に中継することがその契約内容だった。この独占契約に対し、公共ラジオ放送を管轄する国営ラジオ・フランスやRFIなど主要ラジオが「報道の自由に反する」として猛反発。RTL、ユーロップ1など民放局と、企業連合体スポール・リーブル(フリー・スポーツ)を結成、この放送権を仏国内で行使できないよう動き始めた。同時に、共産党出身のマリジョルジュ・ビュッフェ青年スポーツ相は「スポーツの商品化が加速する懸念」を表明したコミュニケを発表。報道と放映権ビジネスの均衡を求めることを定めた法に触れ、スポール・リーブルの援護に回った。

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