「サダム・フセインの恐怖」

執筆者:名越健郎2002年5月号

「湾岸戦争OB政権」といわれるブッシュ米政権が、イラク攻撃に着手しつつある。イラクの独裁者、サダム・フセイン大統領の追放は、湾岸戦争で米国がやり残した宿題。テロとの戦いの第二段階に入ったブッシュ政権は、最終目標としてイラクの政権交代を視野に収めている。 長い間意識を失い、眠り続けていた米国人の患者が眠りから覚めた。患者が病院の看護婦に尋ねた。「わたしは一体、何年間眠っていたのだ?」「12年です」「今、大統領は誰だ?」「ブッシュです」「彼の側近は?」「チェイニー、パウエル、ウルフォウィッツ……」「景気はどうなのか?」「停滞し、リストラや失業が増えています」「イラクは?」「攻撃準備を進めています」「どうもヘンだ。意識を失う前と何も変わっていない」 問「フセイン大統領とゴア前米副大統領の共通点は何か?」 答「二人とも、ブッシュに敗れたとは思っていない」 問「イラクを代表する国鳥は何か?」 答「B52とF16だ」 米国の大統領が代わっても、米国のB52爆撃機、F16戦闘機がイラクの空を支配しても、フセイン大統領の長期独裁体制は揺るがない。政権掌握23年になる同大統領は、残忍かつ無慈悲、冷血な独裁者。長男ウダイ、次男クサイら一族郎党を軍や秘密警察に配して権力基盤を確立、少数民族のクルド人や政敵に仮借ない弾圧を加えてきた。国内のメディアでは、「過去数世紀のアラブ人で、最も傑出した人物」(イラク紙)といった、イスラム教で禁じられた偶像崇拝も進んでいる。

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