定期昇給の廃止や退職金制度の見直し、公的年金制度の崩壊と401k(確定拠出型年金)の導入、そしてペイオフの解禁等々。構造改革の進行と日本版金融ビッグバンは、自己責任による“個人財務戦略の確立”を国民に求める。しかしながら適切な助言をしてくれるはずの金融機関への信頼はきわめて薄い。 理由は簡単だ。金融機関は、自らの経済合理性を追求するあまりに資金の乏しい利用者の視点で考えてはくれないからだ。これは昔も今もなにも変わっていない。「もっと言えば、銀行や証券など日本の金融機関には思想が徹底的に欠落している」と語るのはスパークス・アセット・マネジメント投信社長の阿部修平だ。「たとえばトヨタ自動車が売っているのは、利用者の視点で完璧なモノを完璧なシステムから生み出したいとする思想であり、そのための形がたまさか自動車であったにすぎない。投資産業も同じように、時代観や歴史観という思想を持って顧客に向き合うべきなのに、それがないから目先のマネーゲームを煽ったり、自らの経済合理性ばかりを追求する」 阿部は、かつてヘッジファンドの帝王と呼ばれるジョージ・ソロスのもとで日本株運用を担った人物である。八〇年代中盤には構造改革時代の到来を予見し、三年間の運用は自らの時代観を検証する日々となった。そしてソロスから教えられたのは「投資とは思想である」という知的姿勢だった。帰国後は独立系としては国内初の投資顧問会社を設立。抜群の運用成績を上げながらも、それを売り物にするのではなく、自らの思想に投資して欲しいと訴えてきた。投資顧問会社を投資信託会社に拡大した現在、六本の投資信託を独自に設定・運用しているが、その基本方針はなんら変わらない。

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