9.11後も成長する欧州「格安」航空業

執筆者:大野ゆり子2002年6月号

 モーツァルトは三十五年十カ月と九日の人生のうち、十年二カ月と八日間を旅の空で過ごしたといわれている。ガタゴト揺れる馬車の日々が、ジェット機での数時間に代わったものの、音楽家の生活には相変わらず旅がつきものである。特に大変なのは、チェロのような大きな楽器の奏者の空の旅である。楽器の中には億単位の値がつく名器もあるし、何よりも、演奏の大切な「パートナー」なので、値段云々にかかわらず、荷物として預けるような危険は冒せない。当然、座席が二席必要になり、チェロには立派に一人前の料金がかかることになる。「その点、指揮者は指揮棒一つだから、身軽でいいですねえ」と、あるチェリストに溜息まじりに言われた。ところが、である。指揮者にも意外な重荷がある――私のように旅についてくる妻がいるのだ! 目的地に着いたら何も食べずに演奏に精を出す楽器と違い、妻はお腹も空かせる。厄介だ。 考えた末、私が時折利用するのが、ヨーロッパ航空業界で「無駄なサービスをなくして低料金」をモットーに、現在急成長を遂げている格安航空会社である。八五年にアイルランドで設立されたライアンエアは、その出世頭。九七年のEU域内の航空完全自由化後は、破竹の勢いで業績を伸ばし、現在、欧州十三カ国で七十六路線に就航し、年間一千二十四万人の利用客を誇る。これに続くのが、イージージェット、バズなど、いずれも航空自由化が早かった英国の航空会社だ。

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