「ジャック・シラクに乾杯」

執筆者:名越健郎2002年6月号

「フランスがバナナ・リパブリックであることを示した」――。4月の仏大統領選第1回投票で、極右・国民戦線のルペン党首が旋風を起こして2位につけ、決選投票進出を決めたあと、英紙ガーディアンがこう皮肉った。「バナナ共和国」とは、クーデターの起こりやすい中南米型途上国のこと。 ルペン氏は、移民排斥、反ユダヤ主義、欧州統合反対を掲げ、アウシュビッツでのユダヤ人虐殺を「歴史上のささいな出来事」と公言するネオファシスト。ルペン氏の躍進は、フランスの歴史的閉塞感を示唆しているようだ。第2次世界大戦でナチス・ドイツにすぐ降伏したフランスを皮肉るジョークは、英国で語り継がれる。 問「パリのユーロ・ディズニーランドで花火が打ち上げられないのはなぜか」 答「爆音が鳴ると、フランス人がすぐ降伏するからだ」 問「シャンゼリゼ通りの両側に樹木が植えられたのはなぜか」 答「ドイツ軍兵士が日陰を行進できるようにするためだ」 テロリストが国民戦線のルペン党首を誘拐し、シラク大統領に脅迫状を送りつけた。「身代金を10億ユーロよこせ。さもないと、生かして返すぞ」 決選投票は「右対極右の対決」(同紙)となったが、ルペン党首の躍進は、現職・シラク大統領へのアンチテーゼでもある。ルペン氏が現在のフランスを「特権指導者や高級官僚が支配する特異なシステム」と攻撃したように、国立行政学院(ENA)卒の超エリート、シラク氏によるエリート官僚統治の下で、治安悪化や失業増、貧富の格差拡大など社会的な矛盾が広がっているのも事実。

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