シンガポールでいま、子供を持つ親に「我が子をどんな分野に進ませたいか?」と聞くとかなりの確率で「バイオメディカル・サイエンス」との答えが返ってくるだろう。政府の閣僚がことあるごとに国民に訴えるのは、中国との経済関係の重要性とバイオメディカル・サイエンスの将来性。万事が政府主導で進み、それが東南アジア随一の成長を遂げた原動力であることを身をもって知っているシンガポール人は、政府の座標軸に敏感に反応する。だれもが「宝の山がバイオメディカルにある」と感じ始めている。 同国の製造業はエレクトロニクス、化学、エンジニアリングの三本柱で成長の階段を駆け上ってきた。中でも情報通信機器や半導体で構成するエレクトロニクスはいまも生産の約四割を占める大黒柱だが、より付加価値の高い産業への構造転換が不可欠とみて政府が一九八〇年代半ばごろから着目したのがバイオメディカル・サイエンスだった。 ゲノム(遺伝子情報)などの基礎研究に資金と人材を投入する一方、医薬品や医療機器を製造する有力外資を誘致して産業としての独り立ちを目指す。政府内部では「フォース・ピラー(第四の柱)」と位置づけられる。当初は「ライフ・サイエンス」という言葉を使っていたが、これには農業科学や動物関連の領域も含まれていた。産業振興の焦点を「ひとの健康」に絞ることをアピールするため、二〇〇一年からは「バイオメディカル・サイエンス」という言葉を大々的に宣伝している。

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