投資ファンドと買い占め屋の危うい境界線

執筆者:喜文康隆2002年7月号

「大多数の株主にとっては、自分たちの総会の権威を無視した人々を支持するほうが、この総会そのものの権威を維持するよりもいっそう重大な問題だ、という場合さえありえたのである」(アダム・スミス『国富論』)     * 五月下旬、二つの「買い占め事件」の幕がおりた。 一つは、アパレル大手「東京スタイル」に対する株主提案を巡る委任状獲得競争。総額五百億円にのぼる現金配当や上限五百億円の自社株買いなどを要求していた投資ファンド「M&Aコンサルティング」の提案は、五月二十三日の株主総会で退けられた。 もう一つは五月二十一日、中堅スーパー「いなげや」の発行済み株式の二六・一%を大手スーパー「イオン」が百五十七億円で取得、筆頭株主になったことである。いなげや株を売却したのは、八〇年代末から九〇年代にかけ、流通株を大量に取得して華々しく流通再編をぶちあげていた不動産会社「秀和」である。いなげや株は、その秀和が保有していた最後の流通株。いなげや株の売却で秀和は、自らの損得はともあれ、目指していた流通再編の役割を果たしたことになる。機能は「投資銀行」 秀和が不動産業界だけでなく株式市場でも台風の眼になったのは、今から十数年前。バブルの最終局面の八八年から九〇年にかけてのことだった。秀和が取得した流通関連株は、百貨店では伊勢丹と松坂屋、そして中堅スーパーでは忠実屋、いなげや、長崎屋、ライフストアなどに広がった。いずれも筆頭株主に近い保有数を誇り、保有総額は時価で数千億円にも達した。

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