トヨタ自動車が本社を東京から愛知県豊田市に移転する「三河回帰」計画が、昨年九月の米テロ事件の影響で揺れている。移転の是非をめぐる議論は白紙に近いところまで戻されたといい、今後も「計画は頓挫する要素をはらむ」(トヨタ関係者)。地元・愛知では固唾を呑んで見守っている。 移転は「九分九厘まで決まっていた」既定路線。経営陣でただ一人の反対派は米国トヨタ社長などを歴任した社内きっての国際派、石坂芳男副社長とされる。海外部門、渉外、広報部門など約千人が働く東京本社(文京区)が移転すれば、「国際ビジネスができなくなる」との持論を展開していたのだ。 そこにテロ事件が起こった。石坂副社長はパニックに陥った同社首脳に対し「本社機能の一元化はセキュリティ上も、極めて危険」と主張。これをきっかけに真剣に計画の見直しが議論されたという。 ただ、平成十九年予定の移転計画は、同年にJR名古屋駅前に新しい超高層ビルができ、十七年にも中部国際空港の開港が予定されていることから、地元との共存関係の上でも避けられない至上命題。セキュリティをとるか、地元をとるか、トヨタの最終決断が注目されている。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。