マハティール首相が語る辞任表明の真意

執筆者:加藤暁子2002年8月号

「一年前から辞任を考えていた……」。滞在中のバンコクでマハティール首相はそう言った。突然の辞任表明に揺れるマレーシアの政治情勢を首相と親交の深いジャーナリストが報告する。[バンコク発]六月二十二日、マレーシアのマハティール首相(七六)は、自らが率いる与党「統一マレー国民組織」(UMNO)の年次総会を締めくくるスピーチで突然辞任を表明した。薄紫色のマレー服を着たマハティール首相は演壇で涙を流しながら二十一年間の政権に「終止符を打つ」と党員に語りかけた。党幹部や閣僚が詰め寄り、演説をさえぎり辞任撤回を口々に求めた。最前列でいつも通りメモをとりながらスピーチを聞いていた首相夫人も思わず棒立ちになった。 国内外のメディアの多くは「次期総選挙に向けた演出」と分析、なかには「マハティールの涙はやらせだった」という穿った見方もあった。果たして辞任は真実か。七月六日夜、筆者は真意を質すために、タイ政府主催の晩餐会から戻ったばかりのマハティール首相夫妻を滞在中のバンコクに訪ねた。 首相は開口一番、「まだ誰にも話していないけれど、実は一年前から辞任を密かに考えていた。妻にも誰にも打ち明けなかった」と語った。その上で「党幹部や側近が首相は死ぬまで続投すべきだと言うのをみて、これは秘密裏に自分だけで決断をしなければ辞任は絶対にできないと思った」と胸の内を明らかにした。辞任の理由は「アジア経済危機を乗り越え、国内が落ち着いた時期だから」だという。

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