日本人1万人「移住計画」

執筆者:梅田望夫2002年8月号

 経済的には臥薪嘗胆の時期がさらに長く続きそうなシリコンバレーではあるが、莫大な国家研究予算とベンチャーキャピタル投資を原資とした先端技術開発の勢いは衰えを見せていない。そんなこの地から、今回は新しいプロジェクトのご報告をしたい。 シリコンバレー経済は今どん底にあるが、「底のときにこそ仕込むのが本筋」と信じ、「日本人一万人・シリコンバレー移住計画」という非営利プロジェクトを立ち上げることにした。「世界中からシリコンバレーに集まって切磋琢磨する技術志向の若者たちと一緒になって、日本の若者たち一万人が活躍しているイメージ」を頭に描きながら、その実現のための支援を二十年がかりで行なっていこうというプロジェクトである。 こんな新しい試みが、日本の若者たちの選択肢に少しでも多様性を与えることになるとすれば、それは日本社会が変わっていくための触媒の一つとしても作用するかもしれない。またいずれは日本でも、中国・台湾・インド等で顕著な「シリコンバレーで培った個人のネットワークが母国と結びつく頭脳流出ならぬ頭脳還流現象」が期待できるかもしれない。 シリコンバレーの人口は約二百五十万人(就労者は約百三十五万人)。うち三五%が外国生まれ。ここは「高学歴のハイテク移民」が最先端の技術開発と新事業創造に明け暮れているという不思議な地である。しかしその中で日本人は本当に少ない。「数年で帰国することを前提とした日本企業からの駐在者」を除くと、シリコンバレー人らしくプロフェッショナルとして生きている日本人はせいぜい五百人くらいだろう。それが二十年かけて二十倍にならないか。二十年がかりの一万人移住計画とはそんな構想である。

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