長野県の小川村。人口三千五百人のこの村にある株式会社「小川の庄」は、信州名物のおやきを年間七百万個生産し、全国の大手コンビニエンスストアにも販売している。年商は七億五千万円もある。 この村の人口はピーク時には九千三百人だったが、過疎化が進み、現在の高齢化率は四〇%。しかし、沈没しそうなこの村は、おやきのお蔭で蘇った。会社の採用条件は六十歳以上。野沢菜、あんこ、かぼちゃ、大根などをおやきにせっせと包み込む女性スタッフの元気な姿はNHKテレビでも放映されたから、記憶にとどめておられる方もいるはずだ。 儲けや、社業の拡大のみをねらうわけではない。もっぱら地域の活性化を狙いとしたこんなビジネスのことを、「コミュニティ・ビジネス」と呼ぶ。コミュニティ・ビジネスは小川村だけではなく、いま全国に静かに広がりつつある。たとえば、東京都の足立区では商店街の有志が「まちの仕事」をする株式会社を作った。小中学校の給食サービスなど地域の住民から持ち込まれる仕事のほか、大手スーパーの清掃なども請け負う、年商四億円の社会的役割を担った会社である。 岩手県ではその名も「岩手コミュニティ・ビジネス協議会」という組織が発足して、県内のあちこちで人材派遣、介護サービス、情報誌の刊行、草刈りや家屋の修理などの仕事が始まっている。このほかに、地域内のモノやサービス、さらには親切や感謝を交換する手段として、独自の地域通貨を発行するコミュニティも全国のあちこちに生まれている。

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