カーテンコールのあと

執筆者:名越健郎2002年9月号

 すべての権力は腐敗する。世界的な人権活動家でノーベル平和賞受賞者、民主化のために死線を何度もさまよった筋金入りの政治家、金大中韓国大統領の次男と三男が、汚職で相次いで逮捕、起訴された事件は、韓国の特殊な政治土壌を改めて想起させた。 来年2月で退陣する大統領は、地方選での野党の躍進や経済問題に加え、息子の事件も重なって、ますますレームダックの様相を強めている。 金大中大統領が就任時に生命保険に加入しようと思い、生命保険会社に電話した。保険料は5年後に跳ね上がる仕組みになっていた。「なぜ5年後から保険料が10倍になるのか」「職を退いた大統領は、死刑を言い渡される可能性が高いからです」 混迷の韓国大統領選で、政治不信を強める第3勢力が新政党「サッカー党」を創設し、ワールドカップ(W杯)4位の原動力になった人気抜群のオランダ人、ヒディンク監督に、国籍を変え大統領選に出馬するよう要請した。 しかし、ヒディンク監督は要請を断った。「投獄されたり、死刑を宣告されたり、息子を逮捕されたりしたくないのでね」 大統領が意欲を燃やした外交政策も中途半端なままだ。北朝鮮への太陽政策は、多額の援助や投資を与えても、見返りは少なく、金正日労働党総書記のソウル訪問も実現しそうにない。W杯3位決定戦の日に黄海で起きた銃撃戦で、野党勢力は太陽政策の失敗を攻撃。ブッシュ米政権も太陽政策を冷ややかに見ている。

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