中国経済を脅かすデフレの罠

執筆者:2002年10月号

[香港発]今、中国では銀行預金が大ブームになっている。都市部の急速な経済成長に伴う所得の増加や低迷する株式市場からの資金の流出などを背景に、もともと個人の銀行預金は前年同期比一〇%台前半の伸び率で増加していたが、今年に入ってさらに増加ペースが加速。五月には初めて八兆元(約百二十兆円)の大台を上回り、その後も一〇%台後半の高い伸びが続いている。「『中国人民銀行が再び利下げに踏み切るのでは』との噂が広がり、駆け込みで定期預金をする人が増えてきた」とある在北京の金融関係者は解説する。人民銀行は今年二月に九九年六月以来二年八カ月ぶりの利下げに踏み切ったばかりだ。当時は昨年九月の米同時テロの影響で米国向けの輸出が伸び悩み、成長率が落ち込んでいた時期。利下げは低迷する内需を刺激し、再び成長を七―八%の目標とする軌道にのせるのが狙いだった。 しかし、その後消費や住宅投資の堅調を背景に米国景気が予想外の強さを見せるとともに、世界貿易機関(WTO)加盟にあわせ日本などから中国に移転した工場が次々と稼働したことで輸出は急回復。積極的な財政支出拡大の効果もあり四―六月期は八%の高成長を達成し、足元の景気に対する悲観論は大きく後退した。それなのに人民銀行の再利下げの噂がくすぶるのはなぜか。

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