天才プログラマーの身体

執筆者:梅田望夫2002年12月号

 プログラマーが書いた「コンピュータが理解できる方法で表現された処理手順」のことをソースコードという。具体的には英語と数式が入り交じったドキュメントである。このソースコードが「コンピュータにしか理解できない機械語(0と1の羅列)」に変換され、その機械語の一つ一つが順番に猛烈なスピードで処理されることでコンピュータは動く。つまり人間とコンピュータの接点にソースコードというものがある。 帯広生まれの石黒邦宏(三五)は、一九八六年に北大に進学してからというもの、大学にはいっさい行かず部屋にこもって文学と哲学書ばかりをむさぼり読むという暮らしをしていた。気がついたら留年していたということもあったし、結局人気のない農学部にしか進むことができなかった。「文系の大学院に転籍して、文学評論でも細々と書いて生きていくしかねぇかな。でもそれも寂しそうだなぁ」とぼんやり考えていた矢先、札幌のソフト会社でプログラムを書く時給五百円のアルバイトを、高校時代の友人が紹介してくれた。 アルバイトをこなすために、邦宏はコンピュータ・サイエンスの教科書を次から次へと読んだ。そしてこう思った。「何だこりゃ。わかる、わかる、何から何までわかってしょうがねぇ。ひょっとしたらプログラマーとして俺は天才なのかもしれないぞ」

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