木枯らしの吹き始めた東京・秋葉原の家電量販店に足を運ぶと、たいてい入り口の一等地を携帯電話売り場が占拠し、NEC、松下通信工業、三菱電機、シャープ、富士通――といった国内の携帯電話メーカーの新機種が仲良く並んでいる。最近よく見かけるカメラ付きやカラー液晶など、どれも機能や値段は似たり寄ったりだ。 年間四千万台以上を新規出荷する日本の携帯電話メーカーは、七千万人を超える加入者総数を誇るNTTドコモ、KDDIなどのキャリアにぶら下がる護送船団方式で発展してきた。だが、そのアンシャンレジーム(旧体制)が崩壊しようとしている。 十月十日、故森永範興NTTドコモ前副社長の一周忌に訪れた、ある携帯電話メーカーの幹部は墓前でこうつぶやいた。「森永さんの下でメーカー各社が同じように恩恵に浴した、古き良き時代は終わりましたよ」 森永氏は携帯電話端末の担当役員として、メーカー各社ににらみを利かせ、NECと松下通工、東芝と三菱電機の提携を仕掛けた。キャリアがメーカーをコントロールする日本的構造の象徴としても、業界内ではその名は健在だ。 キャリアは端末の仕様を決め、複数メーカーに発注して技術を競わせた。代わりに端末はキャリアが全量買い上げ、販売リスクをすべて背負い込む。この欧米にはない業界構造が、メーカーの競争を活性化させ、iモードや写メール、第三世代携帯など、世界でも類を見ない先進的なサービスを生んできたといわれている。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。