あたかも新世代が実権を握ったかのような報道が続いたが、胡錦濤体制はまだ始まってはいない。本誌で「江沢民続投」を的中させた筆者に、中国の“新体制”をめぐる「五つの疑問」に答えてもらった。回答者 藤田洋毅(ジャーナリスト)Q1 中国共産党第十六回大会(十一月八―十四日)と、続く第十六期中央委員会第一回総会(一中総会、同十五日)の結果を受け、日本の新聞は一部を除き「胡錦濤体制スタート」「世代交代実現」などと報じているが、むしろ江沢民国家主席の「権力保持」は明らか。あなたが早くから江の権力保持説を打ち出していたのは、どんな根拠に基づいていたのか。 江沢民が党中央軍事委員会主席のポストを手放さないか、もしくはそれに類する新設ポストに坐ることで実質的に最高権力者であり続けるという直接の証言や状況証拠を、夏前から入手していた。 状況証拠の最たるものは、北京市の中心部にある人造湖・北海の近くに建った大豪邸。二億元(約三十億円)を投じたこの邸の住人はトウ小平の未亡人・卓琳と三女・トウ榕(通称・毛毛)ら。毛毛はトウ小平の晩年、父に付き添い口と耳の代わりを務めた。その死後も党中央の批准を経て『わが父・トウ小平』を著すなど、党公認の「トウ家の代表者」を続けている。毛毛が江の軍門に降ったのは、夫の賀平・軍総参謀部装備部長(少将)が一九九六年の対米不法武器輸出をはじめ野放図な経済活動の責任を問われて軍務から退いたのがきっかけだ。父の威光を背に外資の口利きなどに手を染めていた毛毛も強い批判を受けた。江は「夫とビジネスを取るのか、それとも父の遺志を引き継ぎ党に貢献するのか」と迫り、毛毛は離婚。江は毛毛を意のままに動かせるようになり、トウ小平理論の解釈権を一手に握ったのである。

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