台湾の陳水扁総統が二〇〇二年十二月末に台湾最大の官営鉄鋼メーカーである中国鋼鉄の郭炎土董事長(会長)を突然、解任した。陳総統は二〇〇一年五月に野党寄りだった王鍾渝前董事長を更迭し、台湾独立派の与党民主進歩党に理解を見せる郭氏を董事長に任命した。ところが、郭氏は陳政権の意に添うどころか労働組合や加工業者と対立し、二〇〇四年春の総統選挙に悪影響を及ぼしかねない情勢だった。選挙を視野に入れた陳総統が郭氏を切り捨てたというのが解任劇の真相だ。 郭氏解任でほくそ笑むのは新日本製鉄だろう。新日鉄は韓国のポスコ、中国の上海宝山鋼鉄と組み、東アジアの鉄鋼アライアンス(連合)を築き上げつつある。これに対し、郭氏は中国鋼鉄を核とした独自のアライアンス構想を描き、新日鉄がもくろむ“東アジア鉄鋼新秩序”を乱しかねない存在だったからである。 郭氏の狙いは中国市場にあった。郭氏は就任早々の二〇〇一年七月に「台湾に千四百万トンクラスの第二製鉄所を建設する」とぶち上げた。台湾の年間粗鋼生産量は千六百万トン程度だが、需要量は二千五百万トンに上る。台湾内の消費に留まらず、加工済みの鋼材を中国に輸出しているためだ。しかも、中国に進出した台湾企業の需要は急増している。

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