昨年暮れ、あるベトナム人男性の元に平壌から花嫁がやってきた。北朝鮮の独裁体制の壁に阻まれながらも、希望を捨てることなく、結婚に至った二人。いまベトナム中を沸かせている人間ドラマを追う。[ハノイ発]初めて一緒に過ごすテト(旧正月)、ファム・ニョク・カンと新妻のリ・ヨンヒュイは居間に桃の花を飾り、豚肉と緑豆のちまき「バインチュン」など、テトのご馳走をならべて親戚を迎えた。それはベトナムのどこにでもある普通の家族の光景だった。 だが、ベトナム人のカンと北朝鮮出身のヨンヒュイにとっては、この正月は三十年間待ち焦がれてきた特別のものだった。二人が恋に落ちたのは、一九七一年。カンが平壌に留学していた時のことだった。以来三十一年間、外国人との結婚を認めない社会主義政府の方針によって、二人は別々の人生を歩まざるを得なかったのである。 絶望からの自殺未遂、二人を引き裂こうとする北朝鮮政府の、そうした苦難を乗り越えて、カンとヨンヒュイは昨年十二月、ついに結婚した。長年のカンの働きかけに折れて、北朝鮮がヨンヒュイに異例の出国許可を出したからだ。三十年間、カンはあらゆる手段を講じて両国政府を動かそうとした。そして昨年、ベトナムの大統領が平壌を公式訪問した際にヨンヒュイの出国許可を求め、これが決め手となった。この間、二度の逢瀬と、“暗号”の手紙が二人の心の支えだった。

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