日銀総裁人事の魑魅魍魎

執筆者:2003年5月号

 東大時代ハンドボール部の選手だったがゴルフの腕はいま一つで、程ヶ谷カントリー倶楽部のハンディキャップは20台後半のままである。ことしに入って福井俊彦の姿を見かけることが多くなったと程ヶ谷のメンバーはいう。 寡黙なゴルフは楽しみというよりも修行のようでさえある。一緒に回るだれもが、この人物が第二十九代日本銀行総裁の本命と言われる人物であることを知っている。知っているからこそ、話題にすることはない。むしろ、意識的にその話題を避けることが、紳士のスポーツであるゴルフと程ヶ谷という名門コースにふさわしいとみな感じていた。「もし話があったら、絶対断ってはいけませんよ。あなたしかできる人はいないんだから」。禁を破ってそう言った人に福井はこう答えた。「もし条件を付けられたら、そのときは断ってもいいんでしょう?」。その人は福井の言葉を遮るようにして付け加えた。「条件を付けられたら、その条件だけ断るべきです」 条件、とはいうまでもない。インフレターゲットである。福井はかねてインフレターゲットに否定的で、そのために、福井が打診されたにもかかわらず総裁就任を断ったという見方さえ出ていた。日銀総裁人事をめぐる動きは、半年以上前から本格化していた。人事権者である小泉純一郎はこの一年ほどの間、日銀総裁人事に関しては揺れ続けた。強いて言えば「民間人、意外性のある人物」というだけが基本的スタンス。

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