ベニスを水没の危機から救うには

執筆者:サリル・トリパシー2003年5月号

水の都ベニス最大の観光スポット、サンマルコ広場は、週に二回は水浸しになる。これを防ぐべくイタリア政府が動き出した。[ロンドン発]一九六六年は、大抵のイタリア人にとって、サッカーのワールドカップで北朝鮮にまさかの敗北を喫した年として記憶されている。しかし、水の都ベニスの住人にとっては、史上最悪の大洪水が発生した年だ。以来ずっとベニスは水害に悩まされており、今や住民はいずれ街が水没してしまうと怯えている。 ここへ来て、イタリア政府はベニスを救うため、あるプロジェクトを推進しようとしている。計画の名は「モーゼ(MOSE=Modulo Sperimentale Elettromeccanico)」。四十億ドルかけて、ベニスを構成する島々のある潟とアドリア海をつなぐ自然の水門に扉をつけようというものだ。扉は高潮が発生すると上昇して海水の浸入を防ぎ、水位が元に戻れば下降する。しかし、このビッグ・プロジェクトは侃々諤々の議論を呼んでいる。 水害の原因は、ベニスがヨーロッパ大陸の下に潜るプレートの上にあるため、百年に二・五センチずつ沈んでいることにある。しかもベニスを囲むアドリア海では「セッサ」と呼ばれる独特の波が起きる。さらに、ベニスを含む北イタリアのベネト州には湿気を帯びた南風が吹き、ただでさえ地球温暖化で海面が上昇しているところに気圧の低下が拍車をかけているという事情もある。

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