グローバル市場を守るための「必須条件」

執筆者:上杉博2003年6月号

戦争は終わったとはいえ市場に垂れこめた霧は依然として深い。外交舞台での先進国間の軋轢が、統制や保護措置の乱発へとつながる可能性があるからだ。世界経済はいま、ブロック化の誘惑に晒されながら、大きな岐路に立っている。 市場の関心は再び、経済指標や経済政策に向かいつつある。米経済専門チャンネルCNBCの画面からも戦場風景が姿を消し、株価チャートやアナリストのコメントが際限なく続く平時の姿に戻った。だが、戦争終結が国際政治のきしみの消滅につながらないことを市場も根底では感じ取っている。 イラク戦争やこれを巡る国際的な緊張の高まりは、世界経済が大きな岐路に立っていることを浮かび上がらせようとしている。九〇年代に進んだ経済のグローバル化がさらに加速するのか、それとも潮が引くように勢いをなくしていくのか、である。 九〇年代は、人、モノ、カネが自由に動き、互いに経済を活性化させていくグローバル化のプロセスが加速し、それが不可逆的なトレンドとまで受け止められるようになった。だが、一九九九年のシアトルでのWTO(世界貿易機関)総会を契機に、貧富の格差や「世界の米国化」を懸念した反グローバル化運動が勢いを増す。二〇〇一年九月の同時多発テロは、グローバル化へのもう一つの打撃になる。世界の適地に生産拠点を置き、世界を舞台に「カンバン方式」を進めた多国籍企業は、テロ後の交通遮断や国境規制で、突然国境のカベや安全コストに目覚めさせられる。グローバル化の守護神だった米国が国土防衛を最優先する姿勢に転換するきっかけにもなった。

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