目指すな日本のビル・ゲイツ

執筆者:成毛眞2003年6月号

 三年前にはじめた会社がやっと実質黒字になった。社員数も五十名に達し、これからが本番というところ。しかし、ここにきて少なからぬ人々から上場する気がないかと聞かれる。僕の答えは「考えたこともない」である。 ここ数年、「目指せ日本のビル・ゲイツ」を合言葉に、設立間もないベンチャーに資金が投入され、その多くが失敗に終わった。多くの人々はいまだにベンチャーバブルの後遺症を患っているように思える。教訓が生かされていないのだ。 そのビル・ゲイツのマイクロソフトは一九七五年に設立され十一年後の八六年に上場、今年で二十八周年を迎える企業だ。設立から紆余曲折をへて内部留保を厚くし、満を持しての上場だった。ビル・ゲイツを目指すのであれば、わが社もあと八年は在野でがんばる必要がある。 エンジェル税制拡充や政府によるベンチャー育成を唱える政官財の人々は、この事実を全く知らないのであろう。一般の個人が十年間も無配が続くなか、売却益も出せずに資金を眠らせることが出来るとは考えられない。政府の資金であればなおのこと。納税者から疑問の声があがるはずだ。 ベンチャーを育てたければ、政官財の人々が何もしないことが、もっともエレガントな方法だ。年功序列の枠組みのなかで、複雑な利権や談合で生計を立て、アンシャンレジームに安住する人々に、ベンチャー支援などという資格はない。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。