合併しない自治体 自立を選ぶ長野の村

執筆者:水木楊2003年6月号

 全国市町村三千二百十七のうち、合併のための法定協議会や任意協議会を設置している自治体は、過半数を突破した。研究会などを設置しているところも入れると、八二・七%(平成十五年一月現在)に達する。 すさまじいほどの合併ブームだが、そのブームに乗らずに合併しないで生きていこうという自治体があることにも注目しなければなるまい。 自治体が合併へと動くのは財政事情が苦しいからである。政府は中央で集めた税金の一部を地方に分配するという地方交付税交付金を徐々に減らそうとしているが、合併することを決めた自治体には、平成十七年度以降十年間、これまでと同じ額の交付税を支給する方針を打ち出している。そのほか、合併計画作成のための経費や合併後のモデル事業に対する補助金も出すし、合併特例債も発行を許可する。 合併へと動かぬ自治体は、財政事情がそれほど逼迫していないところが多い。だが、山間の過疎地帯で、一見して合併以外に生き残る道がなさそうに見える村が国の方針に背中を向けて独自の道を歩もうとしている。政府のちらつかせるアメに飛びつくことをせず、できるだけ自立して生き残ろうとしているのである。効率化と幸福のあいだ その具体例を確かめるため、三月某日朝七時十分、新宿駅から「飯田行き」の高速バスに乗った。行き先は長野県泰阜村。飯田に着いたのは十時四十五分。そこからタクシーで南下すること約一時間。静岡県との県境に近い、山奥の交通の便が限られた村である。

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