福井総裁の誕生で日銀「御殿女中」化の懸念

執筆者:石本量司2003年6月号

 臨時の政策委員会開催、銀行保有株式の購入枠拡大、中小企業の資金繰り支援……。「福井日銀」が発足直後から矢継ぎ早に策を繰り出している。政府・与党はこれを歓迎、マスコミの扱いも好意的だ。速水時代とは段違いのウケの良さに喜んでいると思いきや、幹部らの表情は一様に暗い。いずれの策も透明性や健全性の面で少なからず問題があるからだ。「総裁は何を焦っているのか」。現場からは不審の声が上がっている。 新総裁の手腕は“柔軟”“迅速”と評価されているが、一つ一つの策は実は疑問符だらけだ。臨時の政策委員会は、インターバンク市場の落ち着きを考えれば開催根拠はないし、一度臨時を開けば政策変更の時期の見当がつきにくくなる。株購入枠の拡大も年度末のタイミングを見計らったかのようで、政府に株価対策をプレゼントしたのが見え見えだった。 中小企業の資金繰りを支援するために売掛債権の流動化商品を買い入れる方針も、市場介入の側面が強く、「効果はほとんどない」(都銀)と見透かされている。下手をすれば企業金融に深入りし、経営の悪化した企業の社債やコマーシャルペーパー(CP)の買い入れにまで追い込まれていく恐れもある。 福井俊彦総裁は速水優前総裁と同様、金融政策の透明性を重視し、日銀資産の健全性を尊重する意向を表明してはいるが、打ち出す策はことごとく意向に反している。実のところ、日銀幹部の多くは新総裁の行動に疑問を持ち、特に流動化商品の買い入れについては「ほぼ全員が反対だ」(複数の幹部)という。

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