紀元前四―五世紀から始まるといわれていた弥生時代が、それよりも五百年前に始まった可能性がある……。先日、そんな報道があった。国立歴史民俗博物館が、弥生時代初期の土器の年代を測定した結果である。これが本当ならば、鉄や稲作の伝来をめぐって、日本だけでなく中国大陸や朝鮮半島の歴史まで見直さねばならない大発見だ。 考古学界は大変な騒ぎらしいが、ここへきて指摘されているのが「追試」の必要性である。追試とは、別の人間が同じ実験をしても同じ結果が出るかどうかを確かめること。歴博が土器の年代を測定した方法は、放射性炭素年代測定法。大気から生物の体内にとりこまれる放射性炭素14は、生物が死ぬと同時に規則的に減少し、五千七百三十年で半減する。この性質を利用し、土器に付着した炭化物を調べるという科学的手法である。ただし、今回使われたのは加速器質量分析法という精度の高い新しい方法で、このため従来と異なる年代が割り出されたらしい。半世紀にわたって信頼されてきた測定法にも、そろそろ見直しが必要になってきたのかもしれない。 私は、本書『億万年を探る』(青土社)を読んでいる最中に、なんとも絶妙のタイミングでこの報に接した。それだけに、世界がいつ始まったのかという問いは、だれがどのように世界の始まりを測ったのか、あるいは決めたのか、という問いにほかならないと強く実感することとなった。

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