エコノミスト誌百六十周年特集号が語るもの

執筆者:喜文康隆2003年8月号

「企業を設立することがなぜ有利かという主要な理由は、価格メカニズムを利用するための費用が存在する、ということにあるように思われる」(ロナルド・コース『企業の本質』)     * 今年で創刊百六十周年を迎えた英国のエコノミスト誌は、六月二十八日号で「資本主義と民主主義」という示唆に富む特集を組んでいる。 スコットランド出身の帽子製造業者だったジェームズ・ウィルソンによってエコノミスト誌が創刊されたのは一八四三年九月二日。当時のヨーロッパは資本主義の勃興期で、エコノミスト誌の創刊時の狙いも当時の最大の政治テーマだった穀物法の撤廃にあった。いわば新興ブルジョアジーの利益を代弁する反体制ジャーナリズムとして出発したわけだが、百六十年の時を経て、世界中のビジネスエリートの必読誌にその役割を転じた。 しかし、こうした位相の変化にもかかわらず、百六十周年特集号が「経済的な規制を廃して、世界の自由な貿易体制を維持する」という創刊当時のウィルソンとまったく同じ主張で結ばれていることはまことに興味深い。貪欲な企業経営者たちの過剰な報酬を批判し(Pigs, pay and power)、アングロ・アメリカ流の資本主義に対する内部からの最も激しい批評を続けるエコノミスト誌。彼らが掲げ続ける「経済的自由主義」には、現代社会のさまざまな苦悩が集約されているように思える。苦渋の中での「されど資本主義」「されど市場主義」の選択なのだ。

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