ネーミングは楽しい

執筆者:成毛眞2003年8月号

 我が家のゴールデンレトリーバーはチップと呼ばれている。青のセキセイインコの名前はチョコ。親戚のビーグル犬はクッキー。三匹あわせてチョコ・チップ・クッキーとなり、ハーゲンダッツのアイスクリームになる。こころはマイ・スイート・ハートだ。 ネーミングには子供の頃から興味があった。祖父がヘビースモーカーだったこともあってタバコの銘柄に興味があった。いかにも田んぼで一服といった感じの「いこい」。昭和二十四年発売の「しんせい」は新生の意味なのだろう。闇市上がりのワル用かと思った「ゴールデンバット」は明治三十九年発売。しかし、禁煙流行りの現在では新しいタバコのブランドは育っていない。たぶんマイルドセブンで打ち止めになるのだろう。 鉄道もしゃれたネーミングをしていた。東京-大阪間を行っては帰る「こだま」。その音より速い「ひかり」。戦前からの「はと」や「つばめ」も伝書や渡りをする鳥を選ぶことでイメージが伝わってくる。具体的なイメージにとぼしい「のぞみ」が出た頃から、鉄道は特別のものではなくなってしまった。一方、「のぞみ」と同じ意味を持つタバコ「ホープ」や「ピース」のほうは、戦後の米国文化に向き合わなければならない時代の先端だった。じつは「ひかり」と「のぞみ」は戦前、釜山|新京(現・長春)間の急行だった。息の長いブランドである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。