服部真澄の「ボリビア・レポート」

執筆者:服部真澄2003年8月号

昨年夏のボリビア大統領選挙で先住民族系のエボ・モラレス候補が、大方の予想を覆して決選投票にまで進んだことは記憶に新しい。モラレス氏が掲げた、麻薬コカインの原料コカノキの栽培推進というスローガンを、貧しい先住民族系の農民たちは強く支持したのである。コカ葉の大産地、中部山岳地帯チャパレ地方。ここを新作長編『GMO』の舞台の一つに選んだ服部真澄氏が、コカノキ栽培の伝統に根ざすボリビア社会の現状を探った――。「ボリビアへ赴き、コカノキの栽培を見てきた」 そう告げると、たいていの人がおやという顔になる。 コカノキからは麻薬・コカインが連想される。当方が小説家で、取材のための旅であるといっても、なにか不穏な感じを受けるのだろう。 そこで「あの国では、コカノキ栽培が合法なのだ」と付け加える。そればかりではなく、昨年行なわれたボリビア大統領選では、コカノキ栽培推進派の議員エボ・モラレス氏が第一次投票で二位につけ、決選投票にまで持ち込んだくらいに、コカ畑とコカノキ栽培農家が現実的な力を持つ国なのだと説明する。コカノキ栽培農家は、コカレーロスと呼ばれている。 実をいえば、コカノキはアンデス山脈周辺で生きる人々にとって、古くから知られる伝統作物。コカ葉には疲労回復剤、清涼剤的な役割があり、インカ帝国時代にはその効用が知られ、“神のプレゼント”ともいわれていた。

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