「中国の泣き所」チベット問題に変動の兆し

執筆者:藤田洋毅2003年8月号

昨秋以来、三度目の特使訪問も決まっているという。なぜ、チベット亡命政府と中国は、ここへきて対話を加速させているのか。「訪問者は、ダライ・ラマと極めて密接な関係にある」と中国外務省報道官が認めれば、亡命政府側も「大いに勇気づけられた」「我々は次の段階に進むことを提案した」と声明。昨年九月に続き五月二十五日から六月八日まで、ダライ・ラマ十四世の特使が訪中した。中国政府筋は「年内に再び特使が北京入りする計画も決定済み」という。一九九三年から途絶えていた中国共産党とダライ・ラマ亡命政府の接触は、なぜいま加速しているのか。党中央の中堅幹部は、「早ければ来年、世界が目を丸くするような“突破”が見られる可能性も」と漏らした。 昨年七月にダライ・ラマの実兄、ギャロ・トゥンドゥプが中国政府の案内でほぼ五十年ぶりにチベットに帰郷したのが始まり。実兄は、七〇年代から「私人」としてたびたび中国を訪問、一貫して水面下の交渉をつないできた重要人物だ。 実兄の訪中を受け亡命政府内閣のサムドン・リンポチェ主席大臣から積極発言が出る。「チベットは中国の一部であり、国を割るようなことは絶対にない」と断言、「一国二制度は譲れない原則だが、香港・マカオとは異なるところがあってもいい」と踏みこんだ。亡命政府はかねて、チベットの高度な自治すなわち「外交と国防を除く経済・通商・教育・保健衛生など住民の生活に関わる全分野」を要求していたが、香港・マカオ方式より譲歩する用意を初めて滲ませたのだ。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。