「宗教への回帰」が塗りかえた“世界地図”

執筆者:立山良司2003年9月号

演説で「神」を語る大統領、「アラー、アクバル」を叫ぶテロリスト。世界各地で同時に進む「宗教への回帰」が、国際情勢を読み解く鍵となる。なぜ宗教は政治の場に再び登場したのか――。連載を締め括る特別論文。 三年ぶりに訪れたレバノンの首都ベイルートでは、予想をはるかに上回るスピードで復興が進んでいた。内戦の傷跡はまだあちこちに残っていたが、中心部にはレストランや最先端のモードショップが軒を並べ、人々が食事やショッピングを楽しんでいた。同時に実に多くのモスクや教会が修復され、宗教の存在を強烈にアピールしていた。お洒落なカフェのすぐ近くに、イスラム教シーア派組織で、米国やイスラエルからは「テロ組織」とされているヒズボラの事務所があり、不思議なコントラストを醸し出していた。 一九七五年に始まったレバノン内戦が十五年以上も続いたひとつの原因は、主要なものだけでも十八あるといわれる宗教・宗派が社会の亀裂を拡大し、相互の対立や憎悪を煽ったことだ。その意味でレバノン内戦はちょうど同じ時期に起きたイラン革命とともに、宗教が現代でも依然として政治と分かちがたく絡み合っていることを示した最初の例だったといってよい。以後、我々は「宗教への回帰」「再聖化」「宗教の復権」と呼ばれる現象を次々と目の当たりにした。しかも英国の政治学者ジェフ・ハイネスが「今や宗教が社会政治的な関心事項のトップとなっていない国を探すことは難しい」と述べているように、中東やイスラム世界に限らず、宗教の復権は世界の各地で同時並行的に進んできたのである。

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