「生粋のアップル人」の心意気

執筆者:梅田望夫2003年9月号

 木田泰夫(四一)はアップルひと筋、生粋のアップル人である。木田の存在なくしては、マッキントッシュの日本語環境がここまで進化することはなかった。日本語入力プログラム「ことえり」、その下に隠れている「日本語文章を最小単位に分解する形態素解析システム」、デジタル・フォント業界の古い構造を打破するための「ヒラギノフォント」のマッキントッシュ標準搭載など、ここ十数年のアップル日本語環境の発展は、すべて木田のリーダーシップによるものである。 東大農学部生物化学科でバイオテクノロジーを究めようとしていた木田は、学者としてのキャリアをエイズ研究からスタートすることまで、決まっていた。一九八九年のことである。「でも大学院進学を前に、本当にこの道でいいのかな、と突然悩み始めてしまったんです。そしてある日一晩悶々と考え続けた結果、よしコンピュータにしようって。それもこれからはパーソナル・コンピューティングだぞ。そしてそれならばアップルしかないって」「アメリカのアップル本社に応募することも考えないではなかったけれど、アップルに行こうと考え始めたとたんに、アップルの日本語機能の貧弱さに何か無性に腹が立ってきたんですよ。アップルは日本語に対していい仕事をしていない。自分がやることはたくさんあるじゃないか。日本でエンジニアリングをやらないからダメなんだ。僕は日本のアップルに勤めるぞ。今考えればびっくりするような発想の展開の仕方ですけれど、翌日にはアップル・ジャパンに電話をかけていました。雇ってくださいって」

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