『日はまた沈む』『来るべき黄金時代』などで知られる英国The Economist誌編集長ビル・エモット氏の最新作が、『20世紀の教訓から21世紀が見えてくる』(鈴木主税訳、草思社)である。題名が示すとおり、本著でエモット氏は、二十世紀の世界の経済社会の歴史を振り返り、二十一世紀のあり様に洞察を巡らす。極めて野心的、壮大なテーマに取り組んでいるが、予言者めいた断定や、世の中を風靡しようとするキャッチフレーズとは一切無縁だ。 政治、経済、社会、思想哲学の理論や分析ばかりでなく、映画や小説の知識も総動員されており、骨太かつ洗練された考察が展開されている。歴史に表れた物事の本質を簡潔に手際よく把握し、多面的な分析の中から大きな方向を浮かび上がらせる――英国ならではの良質な教養主義・経験主義が生んだ秀抜な歴史観が全編に満ちている。 歴史を読みとることから、過度の楽観主義でも過度の悲観主義でもない興味深い観察が生まれる。十五世紀頃に世界で最も豊かな国だった中国は、何世紀も続いた長期的衰退をやっと逆転させて最近急速に成長している、と見る。また、日本には将来への悲観的ムードが蔓延しているが、二十世紀前半の米国を思い起こせという。米国は一九二〇年代の空前の好況の後、バブルがはじけた日本の九〇年代のように大恐慌の三〇年代に突入、収拾しがたい経済的混乱を経験したが、一九四五年には再び揺るぎない世界のリーダーになったではないか? 欧州連合の今後については懐疑論が強いが、一八四〇年代には同じく各々独立心の強い州の集まりであった合衆国が、百年後に世界の指導的地位に立つと誰が予想し得ただろうか?

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