[ニューデリー発]八月二十五日、インド西部ムンバイ(旧ボンベイ)で連続爆破テロが発生し五十人以上が死亡した。テロ続発の懸念から国内主要都市の経済、交通、治安の混乱は数日にわたって続いた。ムンバイ警察は九月一日に実行犯の容疑者グループを逮捕したが、印パ国境で活動を続けるイスラム過激派の関与が濃厚となり、イスラム国家パキスタンとの関係緊迫化を懸念する声も出ている。 今年四月、かねてパキスタン政府の越境テロリスト支援を批判してきたインドのバジパイ首相は、唐突とも感じられるパキスタンとの対話姿勢を掲げた。パキスタン側もそれに応じ、両国間には約一年半ぶりの緊張緩和機運が生まれていた。それから四カ月。貿易関係者や財界代表者間の相互交流も始まった矢先のムンバイ・テロはインド国内の反イスラム感情を煽り、対パキスタン強硬論が再燃しかねない、という論理だ。 確かに、今回のムンバイ・テロが昨年五月の印パ危機の引き金となった国境付近のテロより多数の死者を出したことを考えれば、悲観論を完全に否定するのは難しい。事実、民間航空機の相互乗り入れ再開協議も事件後に物別れに終わり、印パ雪解けムードの失速感は否めない。 ただ、少し引いた視点で見れば別の映像も見えてくる。国内情勢とパキスタンの動向という「二つの変数」を抱えてきたインドの対パキスタン政策に、イラク戦争後は第三の変数が加わっていることに気づくのである。

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