音楽祭に託したシュレーダー首相の思惑

執筆者:西川恵2003年10月号

 小泉純一郎首相は八月十七日からドイツ、ポーランド、チェコを歴訪。最初のドイツではシュレーダー首相に招待され、バイロイト音楽祭でワーグナーのオペラ「タンホイザー」を鑑賞した。 昨年、カナナスキス・サミット(カナダ)終了後、シュレーダー首相が横浜でのサッカー・ワールドカップ決勝戦観戦のため日本の政府専用機に同乗。機中の歓談で小泉首相がオペラファンと知り、招待を約束していた。 十八日、ベルリンで日独首脳会談を終えた両首脳は共にブラックタイに着替え、ヘリコプターで一時間半のバイロイトに飛んだ。劇場では千八百人の超満員の観衆に迎えられ、五時間三幕のオペラを鑑賞した。幕間にはオーケストラ・ピットや舞台裏を見学し、孫のウォルフガング・ワーグナー夫妻が催した劇場のレストランでの夕食会にも出席。ワーグナーのCDは全て所有、生演奏を聴くのが夢だったと言う小泉首相は、興奮からか「とめどなくしゃべり続けた」(関係者)という。終了後、記者団に「感動した」「忘れられない夜になった」と語った。 ただ日本では小泉首相との絡みでのみ語られたバイロイト音楽祭だが、独首相として戦後初めて出席したシュレーダー首相にとっては政治的意味合いを含んでいた。

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