有能な経営者が有害な存在に転じる時

執筆者:喜文康隆2003年12月号

「わたしはこれから、哲学と実践とを混同しようとする古代ギリシアの傾向を、最大限の確信をもって批判しようとするつもりなのである」(パース『連続性の哲学』)     *「キヤノン社長の御手洗さんの経営手腕と企業家精神は尊敬しています。しかし、その御手洗さんでさえ時間がたてばダイエーの中内(功)さんになるかもしれない。そうならないための制度がコーポレート・ガバナンスなんですが、彼はどうもわかっていない」 こう語るのは、財界のリーダーの一人と目される、ある外資系企業のトップである。 歯に衣きせぬ言動、滞米生活二十年以上の経験、そして日本企業の閉塞状況の中でのキヤノンの圧倒的な業績もあいまって、御手洗冨士夫の評価が高い。最近、日経産業新聞が実施した「尊敬される経営者」の調査でも、日産自動車のカルロス・ゴーンをおさえて堂々のトップとなった。また、同時に実施した「尊敬される会社」調査でも、キヤノンはトヨタ自動車についで第二位となった。 数年前のソニーの出井伸之ブームは、いまや御手洗ブームによって置き換えられた観さえある。その御手洗ブームは、彼の明快な「アメリカ型経営」に対する批判によって増幅されている。アメリカ型ガバナンスの導入によって自らの立場に劇的な変化が求められることに不安を抱く経営者と、バブル崩壊までに安易な日本型経営を評価したことで出番を失っていたアカデミズムやマスコミの守旧派が、ブームを底上げする。

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