「世界トップ」になったTCLを待つ課題

執筆者:五味康平2003年12月号

 テレビ生産量で中国第二位の大手家電メーカー、TCLが米「RCA」ブランドなどを傘下に持つ仏トムソンとテレビ・DVD(デジタル多用途ディスク)事業を統合することを決めた。TCLの決断は、ふたつの意味で今後の中国製造業の経営モデルになる可能性が高い。 第一は、低価格のみを武器として成長してきた中国メーカーの限界突破戦略だ。中国は外資メーカーからの技術導入、模倣で市場に後発参入、大量生産による価格引き下げで台頭してきた。家電などでは保証、補修などサービスのよさも一部売り物にはしているが、研究開発の手間とコストは省いているため、独自製品は少なく、ブランド力も弱い。その結果、四川長虹電器、TCL、康佳など大手ですらテレビで利益をあげられない構造がこの数年続いている。統合によってトムソン、RCAの有力ブランドを欧米で使えるようになれば、安売りだけに頼らず収益を確保する道を切り開ける。 第二は「世界ナンバー1」路線だ。中国メーカーは業界全体としては世界最大の生産量を誇る製品が多数あっても、単独シェア世界トップのメーカーはほとんどない。TCLは個別商品で事実上、初の世界トップになるはずだ。これによって部品調達、物流、小売りとの取引条件、生産拠点の展開、広告宣伝などで飛躍的な効率性向上、優位性確保をTCLは狙った。こうした戦略が国内の過当競争に悩む家電など他の中国メーカーの追随を生む可能性が高い。もともと家電最大手の海爾(ハイアール)集団は冷蔵庫、洗濯機など白物家電で米ワールプールやスウェーデンのエレクトロラックスを抜き世界トップになることを目指していたが、TCLに刺激されて外国メーカーの買収などに動くとの観測が流れている。

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