米軍が知らない「ムクタダ・サドルの素顔」

執筆者:木辺秀行2003年12月号

イラク・シーア派民衆の反米感情を束ねはじめた聖職者は、戦前、ノーマークに近い存在だった。[テヘラン発]一人のイスラム教シーア派聖職者が、イラク復興統治に手を焼く米軍を悩ませている。ムクタダ・サドル師。イラク戦争前にはほとんど話題にものぼらなかった人物だが、過激な反米主義を掲げて、民衆の支持を急速に広げている。「イランと異なりイラク・シーア派住民の多くは世俗的」と理解していた米国にとって、サドル師のような宗教色が濃い指導者の台頭は予想外だった。戦前、米国はイラク国内に関する情報を欧米などに亡命した人物や組織に依存してきたが、その分析の誤算がいま、大きな打撃として跳ね返っている。 サドル師は十月十日、司法、財政、情報、文化、ワクフ(寄進)、外交、宗教指導、国防などの機構から成る独自政府を築く考えを表明した。米国はすでに暫定的な機関である「統治評議会」を発足させ、各勢力の有力者が参画する暫定内閣を組織している。この独自政府樹立に向けた動きは、暫定内閣の正統性に疑問符を突きつけるものだった。 また、米軍がイラクから即時撤退するよう求めるとともに、首都をバグダッドからシーア派聖地ナジャフに移すよう訴えている点も注目される。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。