イラクのパレスチナ化と日本のたどる道

執筆者:伊奈久喜2004年1月号

自衛隊派遣への感情的反対論に対する反論は難しい。しかし、冷静に将来を見通す必要があることは間違いない。 テロの衝撃は様々な反応を呼び起こす。世界貿易センタービル、国防総省などに対する攻撃に米国は怒った。アル・カエダの拠点アフガニスタンを攻撃し、タリバン政権は崩壊した。イラク戦争もその延長線上にあり、十二月十三日、サダム・フセインを捕えた。 一方、バグダッド事務所爆破に国連は怯んだ。アナン事務総長はテロに屈しないと強調したが、職員はイラクから撤収した。 日本は悩む。奥克彦大使、井ノ上正盛書記官の訃報を聞き、既に二度延期していた自衛隊のイラク派遣に関する基本計画の閣議決定をさらに先送りした。政府は十二月九日、自衛隊のイラク派遣基本計画をようやく閣議決定した。小泉純一郎首相は記者会見で理由を説明したが、議論は決着していない。 日本の苦悩は続く。自衛隊派遣命令は国会の事後承認を要する。野党だけでなく与党のなかにも加藤紘一氏ら反対を明言する人がいる。彼らが反対姿勢を変えず、採決で反対を貫けば、自衛隊派遣は新年の通常国会で政局絡みの争点になる。 首相の自衛隊派遣論の根拠は少なくとも二つある。イラクを国際社会が放棄すればイラクはテロリストの巣窟になるからであり、日米同盟の信頼性維持のためである。

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