異能の大君ハイム・サバン

執筆者:梅本逸郎2004年2月号

日本の特撮番組で大儲け。そのカネでドイツの民放を買った「わらしべ長者」は次に何を目指すのか。「メディア王」たちを情報・娯楽ビジネスに駆り立てるものは何なのか。一攫千金のカネか、それとも何百万の大衆に与える情報を握るという支配欲か……。ハイム・サバンに対しても、世間は次第にこの疑問を抱き始めている。「カネ」の面ではサバンはとっくに大成功を収めた。一九九〇年代に、日本の子供番組『恐竜戦隊ジュウレンジャー』などの戦隊シリーズを焼き直した『パワー・レンジャーズ』を自らプロデュース。マードックと共同出資した米国の子供向けケーブルテレビ、フォックス・ファミリーで放映して大ヒットさせ、実際には借金漬けだったこの局を二〇〇一年にウォルト・ディズニーに売却して十五億ドルを手にした。一九四四年にエジプト・アレキサンドリアの貧しいユダヤ人家庭に生まれ、音楽プロデューサーとしてイスラエル、フランスと渡り歩いた後、八三年にロサンゼルスに渡ったサバンは、渡米二十年足らずで破格の大成功を手にしたことになる。 しかしサバンはこれで満足せず、フォックス・ファミリー売却で得た資金に外部からの資金も加えて、投資会社サバン・キャピタル・グループを設立し、世界のメディア企業買収に乗り出した。プロジーベンSAT1の買収では、中東のバザール商人を思わせる一年余りの粘り腰の交渉を見せた。エドガー・ブロンフマンが昨年十一月にワーナー・ミュージックを買収したが、この投資グループにも参加が見込まれている。英国の最大手民間テレビ局、ITVにも食指を動かしているとの見方がもっぱらだ。

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