「経営トップ自らが問題解決に当たり、原因究明、再発防止に努める」。日本経団連の企業行動憲章には、不祥事が起こった場合の対応策の心得としてこんな一節がある。会社の信用を揺るがすような事態になれば、矢面に立つのは、まず社長である。ただ、記者会見の場で夥しい数のカメラや記者を前に沈着冷静な受け答えができる社長など、日本にはまずいない。万一いたとしても、落ち着いて話すことが事態を改善させるとは限らない。謝罪の会見では何よりも誠実さを表し、次にトップとして状況を完全に掌握していることを示すことが重要。この点だけでも失敗例は枚挙にいとまがない。 昨年九月の十勝沖地震後、北海道製油所(苫小牧市)で二度のタンク火災を起こした出光興産。「天災か人災か」が焦点だったが、天坊昭彦社長は原因究明途上でありながら「基本的には天災と考えている」と繰り返し発言し、誠実さを疑われた。同製油所が四年間で五回も火災を起こしたことが現地報道機関などによって明らかにされると、「出光の社長は状況の掌握さえできていないのではないか」という印象が強まった。 追い討ちをかけたのは、鎮火後に安全環境本部長を兼務していた稲井清男常務が「我々技術陣は天災とは考えていない」「私も経営陣の一人であり、社長の説を否定したと考えてもらっていい」と真っ向から反論したこと。こうした経営幹部の見解の不一致に加えて、ほぼ同じ時期に天坊社長の進退問題が報道され、出光の経営はにわかに迷走状態に陥った。

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