「官僚の則」を問い続けた竹内道雄の死

執筆者:喜文康隆2004年4月号

「私は、既得権益の力は思想の漸次的な浸透にくらべて著しく誇張されていると思う」(J. M. ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』)     * 一風変わった、しかし、さわやかな通夜だった。 はじめに僧の読経代わりに能楽師の関根祥六が西行と遊女の縁の物語『江口』の一場面をうたいあげると、あとは焼香ぬきの献花だけのセレモニーとなった。参列者の間には、福井俊彦日本銀行総裁、三重野康元日銀総裁、長岡実、山口光秀など歴代の大蔵省事務次官・東証理事長の姿が見られたものの、この種の葬儀や通夜にありがちな“実力政治家”のこれみよがしの参列は目立たなかった。 二月二十九日、東京・芝の増上寺。八十二歳でなくなった竹内道雄の通夜である。竹内は元大蔵省事務次官にして東京証券取引所の元理事長であり、かつては「大蔵省のドン」と呼ばれた官僚の中の官僚である。 エリート官僚には二つのタイプがある。一つは、自らの経歴や仕事ぶりを積極的にアピールしつつ、政治家や財界人とのつながりを求めるタイプ。もう一つは、黒子に徹してあまり自分の仕事や業績を語らないタイプだ。竹内は明らかに後者のタイプである。 前者のタイプを好きではなかった竹内は、彼らを「頭の中になんでも整理整頓されている人たち。自分たちの知らないことも知っているという人たち」と揶揄したことがある。しかし、こうしたタイプが官僚機構にとって必要であることは誰よりもわかっていた。彼の美学がそうした生き方を選ばなかっただけである。

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