新渡戸稲造の英文書『武士道』の対訳本が売れているという。渡辺謙がアカデミー賞にノミネートされたこともあって大ヒットしたアメリカ映画『ラストサムライ』の影響にほかなるまい。かなわぬと知りつつ「近代」に抗い、滅んでいく武士たちの気高い生きざまを情緒豊かに描いた映画だが、一カ月ほどして再度観たときには印象が違った。その間に刊行された本書『銃を持つ民主主義』(小学館)を読んだせいだと思う。 本書はアメリカという、民主主義の理想を具現すべく造られた国家における「銃」の意味を、さまざまな角度から解剖した労作である。本書には、執筆後に公開された映画への言及はむろんない。しかし最近のイラクでも見たように、理想の追求だけでなく、安全も国益も武力で守り、獲得するというアメリカの伝統を、改めて本書に教えられると、『ラストサムライ』では、「銃」がアメリカを象徴していることに気づかされた。 著者の松尾文夫氏とは共同通信時代に、仕事を共にしたこともあったが、その飽くなきアメリカへの関心の原点が、戦時中のB29による無差別被爆体験にあったことは、本書で初めて知った。『ラストサムライ』は、明治初期に舞台設定し、渡辺謙扮する武将率いる賊軍が、アメリカから購入した最新兵器で武装した皇軍に撃滅されるまでを描く。映画の冒頭シーンは、今日のアメリカにも通じる国ぐるみの兵器商人の姿だ。後に武士道に感化される、トム・クルーズ演じる主役の将校ネイサンにしても、皇軍への兵器の売り込みのため、日本に渡ったのだった。

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