タイが未来を賭けた「ネットワークの力」

執筆者:樋泉克夫2004年5月号

企業経営から政治の舞台へ。タクシン首相はアジアに登場した新タイプの指導者だ。周辺諸国にダイナミックに働きかけながら影響力を確保する、その国家運営から何を学ぶか。 三月二十七日、タイ政府はタクシン首相による同月二十九日からのドイツ、ハンガリー訪問を伝えた。同首相が推進してきたタイ版「一村一品(OTOP)運動」の成果披露のために開催されるベルリンOTOP貿易フェアーへの参加と、ドイツ企業を東南アジア、ことにタイ周辺のインドシナ三国とミャンマーへ誘致することが、両国訪問の目的であった。 ところが同日、南タイ最南部で一般市民を巻き込んでの爆弾テロが発生。イスラム教徒が大半を占める南タイでは、イスラム過激派とみられる勢力によるテロ事件が最近多発しており、治安悪化が懸念されていた。この爆弾テロの煽りを受けて、二十八日には、今次外遊に加え、四月中旬から下旬にかけて予定されていたスウェーデン、フィンランドなど四カ国の訪問も中止すると発表された。 折からの国内問題によって頓挫したとはいうものの、この時期にタクシン首相が欧州各国歴訪を思い立った背景には、いったい何があるのか。常識的に考えて、OTOP運動の宣伝程度のことに主目的があろうはずがない。むしろそこに、新しい時代の、ダイナミックにアジアをリードしようとする「タクシンのタイ」が見え隠れするような気がしてならないのだ。

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