【ブックハンティング】 “新生”日銀の真価

執筆者:川本裕子2004年5月号

 物語は一九九八年四月一日の新日銀法の施行と速水総裁体制の発足と共に幕を上げる。外部出身者が多数を占める政策委員会という新しいガバナンス構造の下で、日銀は初めて政治を含めた外界に直接の説明責任を負った。「なぜ」を上手く説明できないままに実施されたゼロ金利導入(九九年二月)、円高を巡り日米協調を演出しようとした政府との不協和音(九九年五月)、速水総裁がクリスチャンの信仰心を支えに、政府の反対を押し切って「強行」したゼロ金利解除(二〇〇〇年八月)、その後の景気後退で余儀なくされた量的緩和への転換(〇一年三月)。こうした金融政策の展開を日銀と政府当事者の証言の積み重ねで語っていく本書『ゼロ金利』(軽部謙介、岩波書店)は、ドキュメンタリーとして一級品の迫力だ。「速水日銀」の評価は、今の金融政策への見方にも直結するが、極力事実に語らせ、主観や断定を避ける手法に徹しており、読後の余韻は深い。読み終わった読者の頭には日銀の金融政策に対する特定の評価が残るわけではないのだが、金融政策はどうあるべきかを自問せざるを得なくなる。 本書を読み進んで行くと、新しく独立性を与えられた日銀では、総裁の意向が政策を大きく左右するようになったことが浮き彫りになる。権限が強まれば責任は明確化するのはある意味で当然だ。では、速水総裁の個人的資質はどのように金融政策に影響したのか。日銀を理事で退任して以来十七年間のブランクを経て総裁に任命された速水氏は、通貨の番人として何よりもインフレと戦うことを信念とし、円の国際的信認を重んずる、伝統的セントラルバンカーとしての性格を色濃く持ち続けた。それが、経済情勢にかかわらず円高を評価したり、デフレ下にある経済の景気回復を過度に楽観視する判断につながった。

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