不妊治療 加速する「最新医療技術」

執筆者:水木楊2004年6月号

 思い切ってやらせるにはリスクがある。さりとて、実際にやってみなければ利害得失は分らない――科学技術が抱える宿命的なテーマである。 子供を産みたいが、生まれないというカップルのために施す不妊治療にも、この宿命的なテーマが横たわっている。 ここ十数年、不妊治療を希望する患者は急増した。いまや全出産の一%、つまり百人に一人は不妊治療によるものとされている。 女性の生殖能力は二十代がピークで、年を経るにつれ低下していくが、女性の社会進出が盛んになり、出産期が遅れていることが最大の原因だ。現代社会のストレスが不妊の遠因になっていることもある。 それだけではなく、生まれつき卵巣や子宮に障害を抱えている例もあれば、精子を供給する男性側に問題があることも多々ある。 一方、不妊治療の技術向上は日進月歩である。不妊患者が増えたのは、不妊治療技術の進歩と表裏一体の関係にある。もしかしたら、子供を持てるのかもしれないという希望が増し、病院に足を運ぶようになるからだ。 しかし、産みたい人がいて、産ませる技術があるなら、どんどん治療すればいい――というわけにはいかない事情もありそうだ。 たとえば、不妊治療のひとつである体外受精。生まれた子供たちに未熟児が多いと指摘する向きもある。「未熟児は不妊治療を施した産科医ではなく、小児科の担当だが、その小児科の方は人材が枯渇しかけており、対応できないという悩みを抱えている。医療全体のバランスも考えなければならない」と日本産科婦人科学会常務理事の武谷雄二東大教授(五六)は言う。

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