宗教国アメリカの悩み

執筆者:2004年7月号

 われわれ日本人はアメリカのことなら大体理解できるという錯覚に陥っているのではないだろうか。自由と民主主義を価値観の基軸に置く社会だと思い込んでいる。たしかにそれはアメリカのひとつの理想ではあるが、現実のアメリカの素顔はかなり違う。われわれがアメリカについて見落としているもっとも重要な部分は、アメリカが宗教大国だということである。自由と民主主義を行動規範としていると考えている限り、アメリカを正しく理解することはできない。 とくにイラクに対するブッシュ政権の対応を理解するためには、アメリカが宗教国、それもかなり強烈なプロテスタント原理主義に影響される国であることを認識しなければならない。大統領ジョージ・ブッシュは三十九歳で「ボーン・アゲイン」した。キリスト教用語で「宗教に目覚めた」のである。それまでは凡庸なアルコール依存者にすぎなかった人間が、生まれ変わったのである。 大統領選挙で「神が私に大統領に立候補するよう命じた」と述べたブッシュは、9.11のあと行なった演説で「十字軍(クルセーダー)」という言葉を使って、世界中が大騒ぎになった。十字軍、十一世紀末から十三世紀後半にかけ、キリスト教徒がイスラム教徒を討伐するために行なった八回にわたる遠征である。ブッシュの口から思わず本音が飛び出したのである。あのころの、そしてひょっとするといまもまたブッシュ大統領は政治リーダーではなく、メシア(救世主)になったような意識なのではないか。

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