衝撃的映像はアメリカの世論を変えるか

執筆者:ルイーズ・ブランソン2004年7月号

ベトナム戦争末期、「決定的映像」によって反戦気運が高まった。果たしてイラク戦争でも、同じことが起きるのだろうか。[ワシントン発]カンヌ映画祭最高の賞であるパルムドールが発表される瞬間、場内は緊張に包まれた。受賞作は『華氏911』。場内を埋めた有名俳優たちが拍手を送る中、マイケル・ムーア監督は驚きのあまり手で口を押さえ、躓きながら壇上にあがった。「いったい何てことをしてくれたんだ?」そしてスピーチでは、アメリカ人がこの映画を観てくれるようにと念を押した。 たしかに、二〇〇一年九月十一日の同時多発テロ以前のホワイトハウスのテロへの無関心ぶりと、同時多発テロ以降のブッシュ政権の行動を追ったこのドキュメンタリーは、普通の映画ではない。 映画は、ブッシュ一族とサウジ王家を密接に結ぶ“石油の絆”をわかりやすく示し、イラク戦争の合理性に疑問を投げかける。また、爆弾によって粉々に吹き飛ばされるイラク市民の姿を映し出し、銃撃される米兵の生々しい映像によって、彼らがなぜそこにいなければならなかったのかを問いかける。さらに、同時多発テロの実行犯の多くがサウジアラビア国籍であったにもかかわらず、十数人のサウジアラビア人がテロの直後にアメリカ国外に脱出したことにも大いなる疑問を呈す。そんな作品なのだ。

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